「企業は人なり」とよく言われます。

また企業とは、「ヒト」「モノ」「カネ」の経営要素から成り立っています。

その中でも、最も重要な「ヒト」を管理する仕事が「労務管理」です。
労務管理は、企業をつくる「ヒト」を管理する仕事であるため、重要な業務です。

労務管理が適切でない場合、従業員からの労働環境や賃金への不満が募ってしまい、従業員による悪質な書き込みが増え、求人数が増えるなど、風評被害にもつながってしまいます。

そのためにも、労務管理者に必要とされるポイントをおさえ、日頃から従業員全体の賃金や労働環境を改善する必要があります。

そこで今回は、労務管理の基本的な業務から、労務管理に必要とされるスキルを紹介します。

労務管理とは簡単に言うと?

労務管理とは簡単に表すと、「従業員の賃金・労働時間の管理」です。

ここでいう労務管理の「労務」とは、「報酬を受ける目的で行う労働勤務」を意味します。つまり、労務管理とは、報酬を受けながら働いている従業員の管理です。

「労務」と「労働」は同じように聞こえて意味が異なります。
「労働」は報酬の有無に関わらない働きですが、「労務」は報酬を伴う働きです。

また、「労務管理」と「人事」の仕事は似ていますが、管理する対象が異なります。

労務管理は労働安全衛生管理・労使関係管理など、従業員全体に関わる業務をしますが、「人事」は人材採用・人材評価など、個々の従業員に関する業務をします。

このように労務管理は、従業員全体に関わる賃金や労働環境を管理します。

労働管理に関する厚生労働省のパンフレット

厚生労働省では、労務管理に関係する人が読むべき「適切な労務管理のポイント」をまとめています。パンフレットには、

賃金の支払
労働条件の変更
解雇・雇い止め
個別労働関係紛争の解決(ストライキ)

について、それに関する法律や、労務管理上参考となる主要な裁判例、厚生労働省がサポートできる内容について書かれています。

労務管理の仕事をする際には、チェックしておくとよいでしょう。

厚生労働省による労務管理の手引

また、厚生労働省では「やさしい労働管理の手引」も公表しています。

やさしい労働管理の手引には、

  • 労働法
  • 労働者の雇入方法
  • 労働条件に関するルール
  • 労働関係が終了する時の流れ

以上の項目が厚生労働省によって解説されています。

こちらも労務管理の仕事をする際に、チェックしておくべき資料です。

労務管理協会と労働保険事務組合

労務管理協会とは、会社に代わって労働保険の保険料の申告や納付・加入申請業務などを行う団体です。

労務管理協会は、別名「労働保険事務組合」とも言われます。

労務管理をする際は、従業員全員の労働保険の加入・保険料の納付等手続をする必要があります。

しかし、人数の少ない中小企業の場合や、専門の担当者を置いていない場合は、そのような従業員全員の労働保険の加入・保険料の納付等の手続きが負担となってしまいます。

そこで労務管理協会は、事業主に代わって労働保険の事務手続をします。

企業が労務管理協会や労働保険事務組合に加入するには、費用を負担する必要があります。

労務管理の基本業務

ここからは、企業の労務管理の基本業務について説明します。

労務管理は従業員全体の賃金や労働環境を改善しますが、具体的にはどのような仕事があるのでしょうか。

労務者情報の管理

まず、労務者情報の管理です。従業員一人ひとりの情報を「労働者名簿」で管理します。

この労働者名簿は、労働基準法第107条で、

企業に対し、事業所ごとに各労働者(日々雇い入れられる者を除く)の氏名や生年月日、履歴等について記入した「労働者名簿」を作成することを義務づけ、労働者名簿の記入事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければならない

と定めています。

労働者名簿は、従業員の氏名や生年月日などの情報を記した書類です。

労働者名簿は事業所ごとに作成・保管が義務づけられています。

この労働者名簿は入社時に1人1枚作成され、賃金や社内の手続き、緊急時の連絡先にも利用されます。

婚姻や移動などで従業員情報が変更された場合は、順次改訂していかなければなりません。

勤怠管理ー出勤簿

従業員の勤怠管理をします。
だれがいつ出勤・退勤したのか管理し、残業や有給の消化もチェックします。

労働基準法第109条では、「労動関係に関する重要な書類」を3年間保存することを義務づけています。

また、厚生労働省が2017年1月末に公表した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、
「出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、
労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならない」と明記しており、出勤簿は「労働関係に関する重要な書類」に含まれると解されます。

2019年4月から変わった従業員の出退勤管理に関する法律により、今まで紙出勤簿のみの提出は不可となりました。

改正後は法的に有効な形での出勤状態の保存が必須となり、客観的な勤怠管理による出勤簿が求められているのです。

つまり、改善できないようなICカードでの打刻であったり、残業命令書に基づく残業報告書の提出などが求められています。

出勤簿の書式に決まりはありませんが、

  • 労働者の氏名
  • 出勤日出勤時刻
  • 退勤時刻
  • 休憩時間
  • 労働日数
  • 時間外労働・休日労働・深夜労働

の項目が必須となります。

給与計算ー賃金台帳

次に、労働者名簿や出勤簿をもとに、従業員に渡す給与を管理します。給与管理には、「賃金台帳」を利用します。

賃金台帳について、労働基準法第108条では、

事業所ごとに作成し、賃金計算の基礎となる事項や賃金の額などについて賃金の支払いのたびに遅滞なく記入することが義務づけています。

法定三帳簿

先ほど説明した「労働者名簿」「出勤簿」「賃金台帳」は、合わせて「法定三帳簿」と呼ばれています。

この法定三帳簿は、労働基準法第120条で、作成していない場合や、作成していても、3年間保存を守っていない場合、30万円以下の罰金に処すると規定されています。

従業員の個人情報や賃金に関わる帳簿であるため正確な記入が必要です。

福利厚生管理

従業員の福利厚生を管理します。

福利厚生の構築や改善はもちろん、福利厚生の浸透や費用も管理します。

労務と人事が別の部署の担当である場合、福利厚生は人事が担当する場合もあります。

安全衛生管理

従業員の安全衛生管理も労務の仕事です。

労働安全衛生法において、事業所の労働者数によって、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医といった、有資格者の選任が義務付けられています。

ここでは労働者人数による必要な有資格者を紹介します。

10人以上50人未満 安全衛生推進者または衛生推進者

労働者が50人以上 衛生管理者と産業医(製造業や建設業などの業種は、安全管理者)

労働者が1000人以上 統括安全衛生管理者(業種によっては、労働者が100人以上から選任が必要)

選任しなければ行けない日が決まってから14日以内に担当者を選任し、所轄の労働基準監督署へ報告しなければいけません。

また、従業員の健康を考慮し、健康診断を実施します。

就業規則管理

雇用主と労働者の間の雇用に関するルールである「就業規則」は、労働基準法89条より、常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署に届け出なければいけません。

就業規則の作成義務や届出義務を怠った場合、30万円以下の罰金がかかります。

業務改善

パワハラなどのハラスメント対策や、長時間労働の是正します。社内でのハラスメントや過度な残業などの問題は、従業員満足度低下につながります。

そのようなことがないために、コンプライアンスや就業規則の見直しや改善します。

経営における労務管理

ここでは労務管理がどのように経営に影響するのか説明します。

まず、労務管理が適切でないと、企業の法律違反や、従業員のコンプライアンス違反が起きやすくなり、企業の信頼度が低下し、ブランディングも低下します。

このように労務管理が適切でない場合、経営にも悪影響が及んでしまうのです。

管理職が行うべき労務管理

会社全体の労務管理は担当者や担当部署がいますが、管理職による、部署ごとや事業ごとの労務管理も重要です。

時代の変化が激しく、些細な問題もすぐに表面化されてしまう現代社会では、管理職に求められる労務管理の役割も、多様となっています。

そのため、会社全体だけでなく部署や事業ごとの労務管理も必要となるのです。

具体的な管理職が担う労務管理は、ハラスメント対策や業務改善です。

会社全体でハラスメントや業務改善を浸透させるより、事業者や部署ごとで管理した方が浸透しやすく、問題点も発見しやすいためです。

派遣社員における労務管理は?

派遣社員に関する労務管理は、派遣先の企業が担う業務と派遣企業が担う業務で分かれています。

派遣社員の就業時間や休憩時間、遅刻や早退などの勤怠に関する管理は、派遣先の企業が担当します。

時給や振込先の指定、有給休暇の取得状況などは派遣企業が管理します。

労務管理に必要なスキル

労務管理に求められるスキルを紹介します。

労働基準法などの法律に関する知識

労働基準法など、労務には、労働時間や賃金を設定・管理するにあたり、法律を遵守する必要があります。

万が一、法律に違反してしまうと、罰金を取られるだけでなく、企業全体の信頼度が落ちてしまいます。そのため、労働基準法などの労働に関する法律の知識が必要とされます。

情報収集力

労働基準法など、企業に対する法律は改定されます。日頃から法律について情報収集しておけば、法律が改定されても速やかにコンプライアンス改定などが可能です。

また、ESG(環境・社会・ガバナンス)など、社会に求められる企業の対応は常に変化しています。

それには、日頃から社会問題や求められている企業像について情報収集する必要があるため、労務には情報収集力が必要とされます。

課題解決能力

職場の労働環境や業務の課題をみつけて、解決策を考案する能力も労務に求められるスキルです。

そのためには課題を発見する必要があり、日頃から従業員満足度の調査・残業時間・有給消化率など従業員へ調査する必要があります。

ハラスメントなど問題があってから対処しては遅く、日頃から問題がないか調査し、問題が発生しない環境を構築しましょう。

このように労務には、法律に関する知識・情報収集力・課題解決能力が必要となります。

労務管理に活かせる資格

ここでは労務管理に活かせる資格を紹介します。

ビジネス・キャリア検定試験

ビジネスキャリア検定とは、職務上で必要となる知識の習得と実務能力の評価を目的とした試験です。

人事・人材開発・労務管理、経理・財務管理
営業・マーケティング、生産管理
企業法務・総務、ロジスティクス、経営情報システム
経営戦略

といった8分野44試験から自分の職種から、1級・2級・3級・BASIC級といった等級を選択します。

厚生労働省が定める職業能力評価基準に準拠しています。

1級は実務経験10年以上
2級は実務経験10年以上
3級は実務経験3年程度
BASIC級は学生、就職希望者、内定者、入社して間もない方を受験対象者として想定しています。

労務の検定もあるため、受験してみましょう。

社会保険労務士

社会保険労務士は、就業規則や賃金規定等についての知識が問われます。
社会保険労務士資格を取得すれば、社会保険に関する各種業務の手続き代行等が行えるます。社会保険関係の専門家として、社会保険労務士事務所等で働いたり、独立も可能です。

社会保険労務士となるためには、社会保険労務士試験に合格して、全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿の登録が必要です。登録と同時に、都道府県社会保険労務士会の会員となります。

試験では以下の法律や一般常識について問われます。

労働基準法及び労働安全衛生法
労働者災害補償保険法
雇用保険法
労務管理その他の労働に関する一般常識
社会保険に関する一般常識
健康保険法
厚生年金保険法
国民年金法

労務管理が適切に行われないとどうなるか

ここまで労務管理の仕事内容やポイントなどを紹介しましたが、労務管理が適切に行われていないとどうなるのでしょうか。

労務管理が適切に行われていないと、労働環境や賃金制度への不満から、ネガティブなネットの書き込みなどが増え、企業の評判が下がってしまいます。

このように労務管理が適切に行われないと、企業価値が下がってしまうのです。
適切に行われていないことから起きるケースを順に紹介し、対策方法を紹介します。

社員からの不満が高まる

職場の衛生環境が整っていなかったり、賃金の支払いが正確でない場合、従業員の労働環境に対する不満が高まります。

また、労務管理がしっかりとされていないと、パワハラなどのハラスメントが起きてしまい、職場に対する評価が下がります。

従業員の不満や評価が下がってしまうと、離職率が高まります。離職率が高まれば求職者からの印象も悪くなってしまい、求人率が下がり、優秀な人材を逃してしまいます。

このような事態を防ぐためには、日頃から職場環境が適切か調査しましょう。また、従業員の声を聞くために満足度調査をしましょう。

法律違反

労務管理は、法律をもとに法定三帳簿を作成したりと、法律をもとに業務を行う機会が多くあります。

労務管理が適切に行われていないと、法律違反となる恐れがあります。

法律違反してしまった場合、罰金が伴うだけでなく、企業の信頼度も低下します。

例えば強制労働の場合、労働基準法では禁止されている行為です。

強制労働は、労働者の権利を奪う悪質な行為であるため、強制労働の禁止に違反した場合は、1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金刑という、労働基準法違反の中で最も重い罰則が科せられています。

また、解雇に関しては、使用者が労働者を解雇する場合、30日前には解雇の予告をする必要があり、解雇の予告が30日に満たなかった際には30日に満たない分の平均賃金を解雇予告手当として支払うことが義務づけられています。

解雇の予告や解雇予告手当の支払いを違反した場合、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。

労働基準法で、労働契約締結時の労働条件の明示や、就業規則の作成・届け出を義務づけています。従業員数が10名に満たない企業の場合は、就業規則の届け出は免除されていますが、書面による労働条件の明示は義務づけられています。
これに違反をした場合は、30万円以下の罰金刑が科せられます。

このように従業員の労務に関しては様々な法律があります。

そのため、労働基準法をはじめとする法律にいて学び、違反することのないようにしましょう。

炎上を引き起こす

労務管理が適切に行われていないと従業員からの信頼だけでなく、社会からの信頼も失います。信頼を失うだけでなく、従業員からのネットのネガティブな書き込みが発生するなど、炎上するリスクが高まります。

ネットに書き込みをされた場合、簡単には消えません。労務管理が適切に行われていなく炎上してしまうケースは最悪と言えるでしょう。

適切な労務管理で業績を伸ばそう

今回は労務管理の意味や業務内容を説明し、ポイントや適切に行われていないことによって想定されるケースについて紹介しました。

労務管理が適切に行われていれば、従業員が働きやすい環境が構築され、モチベーションが向上し業績向上が見込めます。

適切な労務管理で企業の業績向上につなげましょう。